「保険」という仕組みは人類の叡智が生み出した最も偉大で素晴らしい仕組みの一つだと私は思います。そのメカニズムは次の通りです。①保険に参加する仲間同士でお金を普段から少額ずつ積み立てておく。②滅多に起こらないけど万一起こってしまうと壊滅的な状況に追い込まれてしまうような事態(事故など)に仲間が運悪く遭遇した時に、積み立てておいたお金をその不運な仲間にさしあげて窮地から救ってあげる。
なんとシンプルでわかりやすく、賢くも素敵な仕組みでしょう!私は心からそう思います。
さて、このような素晴らしい保険の仕組みがその本来的な有効性をまともに発揮するためには、以下の三つの条件を三つとも満たしていることが必要です。
1.滅多に起こらない事態に備えるための保険であること。
2.その事態が起こってしまうと(保険がないと)壊滅的な状況に陥ってしまうこと。
3.きちんと合理的に設計された保険は「掛け捨て」になるのが当たり前であること。
逆に言えば、以上の三条件のいずれかひとつでも欠いている保険は基本的に要らない保険、成立し得ない保険、あるいは非効率的な保険です。少し意地の悪い言い方をすれば(顧客のための保険ではなく)保険会社が上手く儲けるための保険商品、あるいは詐欺商品です。まぁ詐欺商品とまではいかなくても、結構やっかいな保険商品が(万一に備える本来の保険の思想から著しく逸脱した)運用を目的とする保険商品です。
「愚か者であり続けること」を辞めることの出来ない大多数の人々は「元本保証」という名の餌(えさ)が大好物です。保険会社は、大衆のこの性質をよーく理解した上で巧妙な保険商品を設計して顧客をハンティングします。釣り針に餌を付けて釣り糸を垂らします。
その保険商品こそが、元本保証をうたい長期に渡って顧客にお金を積み立てさせて(銀行の低すぎる預金金利より少しはましな)利回りを保証する「元本保証の運用型保険商品」です。
ほとんどの日本人は悲しいほどに理解できていませんが、そもそもお金(資産)というものは、真っ当な運用さえ出来ているなら20年も経過すれば、5倍前後(悪くて4倍くらい、運が良ければ8倍くらい)に増えていて当たり前です。これは珍しい事でもラッキーでも全くありません。S&P500の過去のパフォーマンスを調べれば、ごく普通のことであることが簡単に確認できます。まずはこの「まともに運用されたお金の増え方の当たり前」をしっかり頭に叩き込みましょう。
その上で、だとするならば、お金(資産)が20年もの歳月を経てなお(たとえば)たった2倍程度にしか増えていなかったとしたら、ご自分の資産はよっぽどひどい運用状態に置かれて来たと疑ったほうがいいのです。つまり「お金が増えてさえいれば、ちゃんと運用できている」ではないのです!
そしてまさにその「よっぽどひどい運用」を実際にやっているのが、先に述べた「元本保証の運用型保険商品」なのです。
実は密かに(笑)保険会社は、顧客から預かったお金を株式(S&P500など)を大いに含めた方法で効率的に運用しています。だから顧客に払い戻すよりずっと儲けています。自分達(保険会社)は、顧客が払い込んだ長期の資金(つまり長期間返さなくてもいい資金)をきちんと長期運用して莫大な利益を上げているわけです。にも関わらず、顧客には低い銀行預金金利より少しましな利益しか還元しない。(そういう契約だから還元する義理もないわけですけど)
私が「元本保証の運用型保険商品は、顧客のためではなく、保険会社が顧客から金利の安い資金を効率良く調達して、長期運用して大儲けするための金融商品である」と主張する理由は、以上のようなカラクリがあるからです。
「愚か者であり続けること」を辞められた人なら、自分のお金を保険会社になど委ねません。「元本保証」などという著しく不自然な愚かしい保証を求めることもありません。つまり短期的な価格変動をきちんと潔く受け入れて、一時的な評価損にもちゃんと真面目に耐え忍ぶという「我慢」をして、ご自分でS&P500に投資して運用するでしょう。当然のことながら、先の保険商品などより遥かに遥かに遥かに大きくご自分の資産を増やすでしょう。そして、このような運用こそが(保険会社だって顧客のお金を使って実は密かに実行している)真っ当な資産運用というものです。
さて、確率はめちゃくちゃ低いと思いますが、もしも歴史上一度も無かったほど米国株市場平均が長期に渡って低迷した場合、
「やっぱり元本保証の運用型保険商品のほうが有利になるじゃないか!」
と、言いたくなる人が(もしかしたら)いらっしゃるかも知れません。もちろん理屈の上ではそうです。でももしそうなった場合、当然保険会社だって自社の業務としての運用全般が全く上手くいかなくなるわけです。つまり軒並みバタバタと経営破綻する保険会社が続出する可能性が充分あり得ます。すると当然安心・安全なはずの「元本保証」の保険商品だって紙クズ化するわけです。
結局、元本保証の金融商品が保証する安心・安全は、しょせん米国株市場平均(S&P500など)のパフォーマンスが、長期的には良いという大前提でのみ成立するものなのです。
「晴れが続けば保証しますけど、百年に一度の嵐が来たら、そもそもわが保険会社そのものが破綻いたしますので、その時は顧客の皆様ごめんなさい(合掌)」
みたいな安心・安全なわけです。つまり「元本保証」とは、いわば幻(まぼろし)みたいな「しろもの」です。そしてこのたかが幻ごとき物のために、この幻を絶対に手に入れたいがために、引き換えに「本来なら得られたはずの巨大な利益」の大部分を保険会社に延々と搾取され続ける。搾取されていることにすら一生気づくこともなく。これが「元本保証の運用型保険商品」というものの本性です。
(文: UEDA / 挿絵:αβγ)
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