2023年の年末だったか、ある著名な起業家の方が YouTube で「これからは日銀が利上げするし FRB が利下げするんだから、来年(2024年)は円高になるに決まってる。何で皆んな分かんないかなぁ?」みたいな発言をされてたのを私は視聴したことがあります。この方は疑いなくビジネスの天才だと思うし、凄く賢い人なので私は尊敬もしているし、常々彼の発言に注目して来ました。でも先の発言を聴いて「ああ、やっぱりこの人はあくまでもビジネスの人だなー」と思いました。つまり市場(とりわけ為替相場)については「あまりよく分かってらっしゃらないなー」と思ったわけです。
どういう事かと言いますと、確かにこの人が予言したように2024年中にドル円のトレンドが円高方向に転換する可能性は充分あったと思います。(実際には2024年トータルでは全くそうならず、彼の予言は外れました)しかし問題は当たり外れではありません。因果律的に「こうなるから、ああなる」的な思考を安易に(とりわけ為替相場の)短・中期的予想に結び付けようとする姿勢に問題がある、と私はその時に感じたのです。
たとえばコイン投げを考えてみましょう。表と裏が出る確率について両方とも50%ずつであることは誰も異論ないでしょう。でもだからと言って「今からコイン投げを2回やる。その結果は、まず最初に表が出たなら次は裏が出る。もし最初に裏が出たなら次は表が出る。なぜなら両者の出現確率は50%-50%だからだ」このロジックにはかなり無理がありますよね。というより明らかに間違ってますよね。(表-表の可能性もあり、裏-裏の可能性もあるわけですから)先のビジネスの天才さんが予言した円高シナリオは、かなりこの手のロジックに近いものがあると私は思います。
ドル円相場が今年の年末にかけてどうなるか?来年はどうなるか?私には皆目わかりません。それでも日本が持つ解決し難い構造的な諸要因によって長期的にはさらに円安になっていく可能性が高い。むしろ円安にならざるを得ないだろうと私は見ています。一方で、短・中期的には一時的にかなりの円高が進む可能性だって充分ありえるとも思っています。
私には1回か2回のコイン投げの結果がどうなるか皆目予測できません。しかしそれでも10回、100回、1000回、10000回・・・と回数を限りなく増やしていけば、大数の法則により表と裏が出る可能性は限りなく50%と50%に収束していくであろうという予想に対しては(いかに未来が本質的に不確実であると言っても)私はかなりの強い確信を持つことが出来ます。
米国株市場平均についてもそうです。今年の年末に向けて株価がどうなるか?来年の株価はどうなるか?について私は皆目わかりません。しかし長期的には、あらゆる資産クラスと比較して圧倒的に増大してゆくであろうという予想に対しては(いかに未来が本質的に不確実であると言っても)私はかなりの強い確信を持つことが出来ます。
余談ですが、ビジネスが得意は人は一般に「因果律的思考」が得意な人が多いのかも知れません。投資が得意な人は「確率論的思考」が得意な人が多いのかも知れません。まぁ実際は両方グラデーションで混ざっりあっているのでしょう。それでも証券投資においては確率論的思考を重視すること(言い換えると因果律的思考の結果を重視し過ぎないこと)が極めて重要だと私は思います。
因果律的思考の特徴として、どんなに精度の高い予想であっても遠い未来になればなるほど結果が悪くなる(つまり外れる)可能性が高まるというのがあります。これに対して確率論的思考の結果は、逆に遠い未来になればなるほど予想通りの結果が出やすくなるのです。その理由は、いわば大数の法則によってパフォーマンスが超長期の平均年率に回帰していくことが長期的には期待できるからです。
近い未来は皆目わからない。けど遠い未来は確率論による大まかな方向性にかなり強靱な確信が持てる。この結果、期待値の高い行動の取り方がわかる。このような感覚が、成功する長期投資家の感覚であると私は思います。
(文: UEDA / 挿絵:αβγ)
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